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5.夏祭りの日に

夏祭りの日、俺とY先輩を含めた独身寮の連中は、とある神社の前の広場にいた。

何故かというと神輿を担ぐためだ。

我が独身寮では数年前から夏祭りで御輿を担ぐことになっている。

これは御輿の担ぎ手がここ数年減ってしまったために、祭りの主催者からうちの会社に協力を依頼されたからである。

結果、俺達独身寮の住人は、会社の社名入りハッピを着て祭りに参加している。

Y先輩達がメンド臭そうな中、俺は初めての経験にワクワクしていた。一度御輿を担いでみたかったんだよね。

さて、本格的な祭りの前に主催者や来賓の方々の挨拶が始まっているとき、Y先輩が俺をつついた。

『おい、あの子可愛いよなぁ!』

Y先輩の指さす先には赤いハッピを着た幼い子供御輿の一団がいた。

『ホント、子供って可愛いっスよねぇ・・・。』

『違うよ!隣に立ってる女だよ!』

どうやらY先輩が言っているのは、隣の青いハッピを着ている女の事らしい。

見たところ20代前半か、子供達の鉢巻きを直したり鼻水を拭いてあげたり、甲斐甲斐しく世話を焼いている。

どことなくスキーモーグルの上村愛子に似ている。

『保母さんか幼稚園の先生ですかね?』

『優しそうで、この前の女とは大違いだよな。あんな可愛い先生だったら俺も子供に戻ってみてぇ!』

どうやら歩き煙草を注意をされたことをまだ根に持ってるらしい。

『あ、ゴメンゴメン!トイレが混んでて!』

そこにもう1人、青いハッピを着た女が上村愛子の元へ歩いてきた。

『もう1人来たぞ。あの子もまぁまぁじゃん。話しかけてみようぜ。』

途端にハイテンションになったY先輩は、そう言うのと同時に女の子達に向かって歩き始めていた。俺が止める前に・・・。

『ねぇねぇ、君たち保母さん?』

振り向いた女はY先輩を見るなり、目の色が変わった。

『あー!あんた!あの時の!』

『え? え? え? (?_?)』

Y先輩は訳も分からず目をパチクリしている。

『今日はこんなところで煙草吸わないでよ。危ないんだから!』

『イィィィィーーー!!!』

ようやく、Y先輩も気付いたようである・・・。

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4.運命って怖ろしい!

しかし、それをきっかけに俺とSの仲が急速に発展したのかと言えば、そうではなかった。

あれ以来話すきっかけもなく(と言っても出会った時も会話という会話は無かったに等しいが)、月日だけは過ぎていった。

それにあの時俺は、Sの事を気が強くて苦手なタイプの女だなぁと思ったし、SもY先輩と一緒にいた俺にいいイメージは持っていなかったので、発展のしようも無かったのだ。

ただ、Sの幼稚園は俺の通勤路にあるので、何とはなしに幼稚園が目に入って、そのついでにSの姿を見かけた事もあった。

しかし、今思えばあの出来事のせいで妙な興味が沸き、Sの姿を無意識に探していたのかもしれない、とは思う。

でも、俺にはその時、彼女がいたし恋愛感情なんてものはサラサラ無かった。

しかし、運命は急転する。

Sと再会する直前に、俺の事情は大きく変わっていた。

それは何かというと、大学1年の時以来付き合っていた彼女との破局を迎えていたのだ。

一人っ子の彼女が大学卒業を機に実家に帰り、二人は離ればなれになってしまっていた。

それでもしばらくは遠距離恋愛を続けていたが、彼女は郷里で新しい彼氏を見つけ、俺は振られてしまったのである。

なお付け加えれば、Y先輩が好きなA子に彼氏がいることが発覚しY先輩の心も傷心だったという事が俺とSとの仲を急速に発展させてしまったのであるから、人の運命とは偶然の産物だとつくづく思う・・・。

果たしてこれは傷心の俺に神様が与えてくれたプレゼントだったのか? ・・・いやそれとも試練なのか???   ><。

・・・前置きが長くなってしまったが、先へ進もう。

俺とSのターニングポイントは夏祭りにあった。

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3.哀しい理由

『あ、園長先生。』

『S先生、あなたまた何かやらかしたの!』

どうやら、よく何かをやらかす女らしい・・・。

『いえ、園長先生!やらかしたのはこの人なんです。』

と、Sと呼ばれた女はY先輩を指さした。

言われて、園長先生はY先輩を見た。

『えー!俺は何もやらかしてないだろ!』

Y先輩は叫び、

『なあ?』

と、俺を見た。

『先輩は歩きタバコをしていて、それをこの人に注意されたんです。』

と、俺は言った。

『ほら、歩きタバコをやらかしてたでしょーが!』

Sは、ほら見ろと言わんばかりにY先輩を睨んだ。

『うるさいっ! タバコの何が悪い!』

『まだ、分かんないの!バカ男!』

『バカ男とは何だよ!』

お互い今にも掴みかかりそうな一触即発の雰囲気だ。

『まあまあ、先輩。落ち着いて。』

『S先生!やめなさい!』

園長先生と俺は、慌てて間に割って入った。

『とにかくあなたは園に戻って掃除でもしていなさい。』

園長先生に言われ、Sは渋々幼稚園の中へ戻って行った。

『何なんスか!あの女は!』

それでもY先輩の興奮は収まらない。

『実は以前この近くで、登校中の小学生の顔に通行人のタバコの火が当たって、大騒ぎになったことがあったんです。』

と、園長先生が言った。

『あと3cmずれていたら失明の危機だったらしくて・・・。それ以来あの子は歩きタバコが許せないんですよ。』

『・・・。』

園長先生の話を聞き、Y先輩の怒りの火種も急に収まったようだった。

『正義感が異常に強いだけで、ホントに悪気はない子なんで勘弁してあげて下さい。』

『あ、いいえ・・・。』

『それからなるべく通学路では、歩きタバコはご遠慮していただくとありがたいんですが・・・。』

『分かりました。気を付けます。』

これが俺とSとの出会いだった。

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2.怒鳴る女

女は、俺達にちょっと怒ったような視線を向けていた。

『俺達の事?』

Y先輩が訊いた。

しかし、その質問には答えず、

『ここはスクールゾーンになってて幼稚園児や小学生が大勢通るから、歩きタバコはやめて下さい。』

と言った。

女は、白のトレーナーの上にピンクのエプロンをしていて、エプロンの腰の部分にはキティーちゃんの顔が2つ並んでいた。

それが厳しい女の表情とはまるで不釣り合いで何だかとてもおかしかったが、もちろん笑える雰囲気ではまるで無かった。

『ああ、タバコ・・・。』

Y先輩は、そう言うと一口タバコを吸い、

『大丈夫、大丈夫!気を付けて歩くから。』

と言った。

『全~然!大丈夫じゃないよ!』

突然、女は大声を上げた。

『さっきからあんた、タバコを持つ手を振り回して歩いてるから、危なっかしくてしょうがないんだよ!』

女の剣幕に一瞬たじろいだY先輩だったが、

『そんな怒鳴らなくたっていいだろ!』

と、怒鳴り返した。

『あんたが怒鳴らなきゃ分からないから、悪いんでしょーが!!』

Y先輩に負けじと女の怒鳴り声は更にヒートアップした。

そばを通る通行人達がパチクリした目で、Y先輩と女を交互に見た。

『S先生!何やってるの!』

その時、目の前にある幼稚園から、慌てて年輩の女の人がすっとんできた。

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1.出会い

自己紹介も無く、唐突に話は始まる。

そして、話はいきなり4年前に遡る。

つまり、カレンダーは全く無視である。

そしてこれからも、まるっきりカレンダーなど無視して話は進んで行くであろう。

そんなブログである。

-4年前-

俺がSと出会ったのは、大学出たての社会人1年生の時の事である。

その当時、俺は会社の独身寮に住んでいて、いつも会社のY先輩の車に同乗させてもらって出勤していた。

しかしその朝、俺達は車を寮の駐車場に置いて、出勤のために15分ほどの所にある市電の駅に向かって歩いていた。

と言っても車を置いて出かけるのは決して珍しい事ではなく、飲みに行く予定がある日なんかはよくそうしていた。

『よっしゃ! 今日は飲み会だ!』

Y先輩は朝からハイテンションだった。いつもの寝ぼけ眼の、機嫌が悪そうな朝とは大違いだ。

その日は月末総会の日だった。

月末総会の日、わが社では、当月の業務報告及び来月やるべき業務内容についての話し合いが持たれる。

というと大変そうだが、その日は半分お遊ぶみたいなもので、終始リラックスした感じで行われる。

仕事も5時にはキッチリ終わり、その後は打ち上げである。

ところで、Y先輩が何故ハイテンションなのかというと、飲み会が好きだという理由だけではない。

今日を機会に、俺と同期入社のA子と仲良くなろうという魂胆である。

Y先輩は駅までの公道だということも忘れ、大げさに身振り手振り付きでA子の可愛さと、俺に協力しろという事をしつこく語った。

『ちょっと、すいません。

ふいにそう呼ばれた気がしたが、俺達は自分達の事だとは思わずそのまま歩き去ろうとした。

『ねえ、ちょっとぉ!ちょっと!ちょっとってば!』

更にザ・タッチみたいに呼ばれた。そこでどうやら俺達の事らしい事に気が付いた。

『ん?』

振り向くとそこには、1人の若い女が立っていた。

それが俺とSとの初めての出会いである。

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